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此処へと辿り着くまで結構な時間が掛かっているはずだのに、初夏の陽はなかなか長く、三時を過ぎてもまだまだ明るい。そんなせいでか、街路を行き交う人の姿も減る気配はない。そんな今時の季節とそれから、広大だとはいえ海の上の人工島だという場所柄のせいもあるものか。運河が巡り、ちょっぴり古びたレンガや石造りの家々が連なる街並みは、元になっているゲームと同じく“どこか架空の国”という設定ながら、潮の香りのする開放的な街、強いて言えば南欧風という印象が強くなっており。
「ハウステ○ボスとか映画村とかと似たようなもんだな。」
「それを一緒にしてどうするか。」
そだね、どっちかと言えばUSJと映画村だよね。(苦笑) 今回のイベントならではな施設“装備屋”にて、ゲーム中のキャラへとなり切るためのコスチュームに着替えたところの、ルフィとゾロを先頭にしたご一行。開幕セレモニーを兼ねた会食レセプションまでには、まだちょっと間があるとのことなので、合流したガイド担当 りぼんちゃんの案内に従い、広場や何やを見て回ることと相成って。
「…判る奴には判るってトコなんかな。」
不意にぼそりと、しかも手短に呟いたゾロへ、自分だって本当は案内する側でありながら、物見遊山もいいトコな様子で辺りを見回していたサンジが“んん?”と訊き返せば、
「どっから見たって普段着の延長のはずだってのによ。」
「…ああ。」
何とも言葉の足りない物言いだが、何を言いたい彼なのかは判る。一旦ホテルへのチェックインを済ませた参加者は皆、彼ら同様に思い思いのコスプレに身を固めた者が大半であり、
「あ、ほらほら。聖剣士クレイシスが団体でいるぞ。」
「あっちには、なりきりブルームハルトさんがいますvv」
「あのカリン、かわいいなぁvv」
「あ、や〜だ、ルフィさん。あたしってものがありながら。」
ルフィとりぼんちゃんとが、周囲に見かける いかにもなコスプレイヤーたちへ、キャイキャイvvと騒ぐのはまま判る。RPGに登場する、騎士だの剣士だの、魔法使いだの召喚師だの、ファンタジー世界の住人らしく、それなりの特長ある衣装やら装備やらをまとっており、髪形や化粧での工夫を凝らしてもいるようだから。だが、それらへと同じような反応やお顔を、自分やルフィへ向けるお嬢様たちが存外多いのが、ゾロには少々意外だったらしい。タンクトップにアーミーパンツだの、無地のTシャツにカーゴパンツだのという、何ともシンプルで平々凡々な恰好でも。はたまた、りぼんちゃんがミスマッチだと不満ぶうぶうだったほど、実はタイプ的にも大いに無理があるキャラを選んだらしいというのにも関わらず。彼ら彼女らには、この二人が扮しているもの、何ていうキャラクターなのかが判るからこその注視注目なのだろうと思いが至り。
―― それって凄くね?と。
今頃になってつくづくと感心しているらしい。そしてそれへは、
「それは確かに、凄いことだわな。」
サンジも同感であるらしく、どこの召喚師様ですかというゴシック調のお衣装の懐ろから、紙巻き煙草を引っ張り出すと、慣れた手つきで火を点けて、
「コスプレへのランキング投票ってのも期間中には催されるらしいがな。ミスマッチ部門ってのは、確かなかった筈だが。」
「…後でしめるぞ、てめぇ。」
こういうところって全面禁煙とかってことになってませんか? それも例の広域暗示で見えない気づけないから大丈夫vv …などと、筆者の放った質問の方に優先して答える格好で、ゾロの放った威嚇はさらりと流した聖封様。そんな彼らの会話が届いたか、
「ランキング投票って何だ?」
先を歩いてたルフィが肩越しに振り返って訊いて来たのへと、それへは素直に応じる聖封様。
「簡単に言や、人気投票みたいなもんさね。」
ふふんと笑って白い指を差し向けたのが、ルフィの胸元、タンクトップの襟ぐりのカーブの真ん中あたり。そこにはゲートで貰ったパスケースが下がっており、
「お前ら参加者は、そのIDパスを提げてることで個人識別されてるからよ。例えば姿を写メで撮って該当サイトまで送るって形で、人気ランキングに投票出来んだと。」
懸賞当選通知と共に送られて来たICタグつきバッジのお次は、参加証として配布されたカードが、招待客らへの様々なサービス対応に使われる“システム・アイテム”へと移行しており。
「さっきは携帯電話でのセンターへの連絡云々の話をしていたが、各所に設けられた公衆電話だの端末機だのへカードをかざすことでも、質問やヘルプは受けられる。あと、今回は試験的なイベントだから、招待客(ゲスト)は何でもかんでも利用料金は無料扱いだが、その際にも財布の代わり、eマネー運用への予行演習みたいなもんで、カードを提示してくれと言われるコトんなってる。」
今回は支払いの必要はねぇが、そうやって…例えば若い年齢層の奴が良く利用する店は何かとか、女の子はどういう傾向のイベントに集まりやすいかとか、色んな情報を収集管理するんだと…と、ひとしきりを話してくれたサンジへ、
「ほぇ〜〜〜、凄げぇなサンジ、此処の人みたいだ。」
「今の俺は“此処の人”なんだよっ。」
お眸々を見開き、大仰に感心する方も方だが、あんまり詳しくないと言っといてムキになる方も方である。
「それとは他のところでも使えるのよ?」
話を聞いていたりぼんちゃんが、後を引き継いでの続けたのが、
「例えば、アトラクションには、
格闘系や魔術師系のキャラが参加出来る、
ダンジョンでのモンスター退治とか、試合形式の武闘会とかがあるんだけど。
そこで勝ったら貰えるポイントをチェックするのにも使われるし。
武闘はやらない、冒険家とか遊び人系のキャラが参加出来るアトラクション、
宝箱探しオリエンテーリングとかカラオケ大会なんかで獲得したポイントも、
カードを通じて加算されてくの。」
ああそういえば、スタンプだかを集めたら金貨が貰えるイベントもあるとか言ってましたっけね。自分での格闘はちょっとという、女の子や幼い子供、はたまた大人しめの男子たちへは、是非ともそちらへご参加くださいということなのだろう。それもまた、利便性のテストを兼ねての使用だろうが、
「オリエンテーリングの方はコスプレしてなくとも参加出来るけれど、だからこそ、このカードが必須になって来るってワケ。」
誰さんなのか、いちいち名乗るのも面倒でしょうし、そうかといって、身分証として携帯のお財布機能や何やを使うのは、利用料とかかかるんじゃないか、履歴に残るんじゃないかって気後れする人もいるでしょうからね、と。すらすらご説明くださったりぼんちゃんへ、
「うわ〜。便利だな、それ。」
実に素直に感嘆のお声を上げてるルフィだったりし。
「今時だったら、
コンビニとか電車の改札とかで似たような機能が使われてんじゃねぇの?」
「いちいち理屈まで理解して使っちゃあいねぇからな。」
えてしてそんなもんです、便利なものってのは。何も先進の機器に限らず、例えば…車だって、何がどう作用して動くのか、エンジンルームの中を覗いての端から端まで、ちゃんと把握出来てないお人って結構おいでなんじゃあなかろうか。テレビや電子レンジだってそうでしょう? 仕組みの理屈はあんまり知らなくとも、操作は出来るんならそれで十分。こそそと言葉を交わし合ったお兄さんたちの今更な“う〜む”をどう思ったものか、
「ほら、置いてくぞ。」
しょうがないなあ年寄りは、若しくは…パパママ早く早く、今度はあれに乗るんだからといったところか。はしゃいでいての急かすような口調で声をかけてくるルフィには、
「…しゃあねぇな。」
「はは。」
困った奴だねとは言いたげにしつつ、でもでもお顔はついつい緩むお二方。屈託のない笑顔がお陽様みたいで、何とも可愛らしかったのと。それから…ああこの子にはいつもこういうお顔でいてほしいと、願ってやまない彼らだからで。本人には何の罪科(とが)もないのに、どれほどの苦しみや怖いことを体験させられて来た坊やなことか。だってのが推し量れないくらいに溌剌としているのを見ていると、何だかこっちがむず痒くなってしまうほどでもあって。
“…うん。今度こそは護り切らにゃあな。”
それぞれが、天世界でも名を馳せてるクラスの、腕に自慢の破邪と聖封。それが…苦戦を強いられの、護るべき対象な筈の彼に励まされのしてばかりいるのは、さすがに不甲斐なさすぎるから。先日来から何とはなく不穏なままになってる気配、決着がつくまでは気を緩めちゃあなんねぇぞとの誓いも堅く、小さな背中をゆったりと追うことにしたゾロとサンジだったのだが………。
「こんにちはvv あのあの、これ、ウチのサークルの無料配布本ですvv」
「こっちはぁ、
来週の土曜に渋谷の☆☆ってクラブで開催予定のダンパのパンフですぅvv」
「あのあの、別なコスはなさらないんですかぁ?」
「シルフィードなんかお似合いでしょうにvv」
「BL系のゲームコスに興味はありませんかぁ?」
示し合わせてのせーのとばかり。当たって砕けろ組がとうとう出たか、どっと押し寄せた女子の群れがあっての。あっと言う間に取り囲まれてたりするところが…まま、罪のない女の子に手ぇ上げても詮無いしねぇ。
「ああ、これこれ。場内での他のイベントへの勧誘や宣伝活動は禁止ですよ。
個々人の出版物やグッズ、冊子の配布もご遠慮下さい。
参加説明のパンフに書いてましたよ、お嬢様がた。」
角が立たないようにという配慮か、長老風のコスプレをした年長なスタッフのお人が、すっ飛んで来て注意してくださったものの、
「…なあおい。
この話、女の子もたんと出てくんのに、
何でこいつはわざわざ男で間に合わせよーとしてんだ?」
「知るかよっ! つか、何で俺に訊く?」
「いや、色事は詳しいかと思ってよ。」
これこれ、ゾロさん。ややこしい同人誌を歩き読みするんじゃありませんてばさ。(苦笑)
「あ、俺知ってる。ウソップが女の子の神秘ってゆってた。」
「女の子の?」
この、長っとろい髪だが男の剣士らしい奴の話をしてるんだが? だってそれ、さっきの女の子たちが渡してったんだろ? 話を考えたのは女の子だろって言ってんだと、胸を張ったルフィさんだったりし。…って、
「だからそういう話へ脱線してんじゃねぇよっ。」
苦労が絶えんね、サンジおっ母様。(笑)
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*一緒にしたらそっちのファンの方々から叱られそうですが、
某『狩人×狩人』みたいな更新になっておりまして申し訳ありません。
何と3カ月も放置してましたね、すいません。(うう…)
*それにつけても…この顔触れだと、
ついついサンジさんが“おっ母様”ポジションになっちゃうのが、
ウチの彼らなのですが。
………きっと絶対に不本意でしょうねぇ。(苦笑) |